このコーナーは、国立科学博物館主催の「ストランディングコーディネーター講座」を
受講した時の内容を参考にしています。
ストランディングとは 一般に云われるように座礁したクジラだけに限らず、下のような場合をストランディングと位置づけているようです。 |
漂流 漂流している死んだクジラ |
迷遊 港湾内や河川に迷い込んだクジラ |
混獲 漁網の内に入ったり、引っかかって いる生きているクジラや 死んだクジラ |
座礁 海岸や岩礁に乗り上げたクジラ 時に集団の場合もある。 |
脂肪の浮いている野島崎西港 |
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体長18メートルを折り曲げて埋めました。 |
巨大な下顎を切り離し、研究者が歯をゴシゴシと掘り返していました。まるで花壇の植木を抜いているようでしたね。 |
それにしても、この筋肉見て下さい。数トンあるだろう下顎をパクパクと動かすんだからねえ。 |
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こんなに摩耗しているけど、元の歯はこんなですよ |
歯を抜いたところ。 摩耗はしているけど、太さは相当大きいことから、年配の雄であることが判る。 |
89年根室で座礁したザトウクジラ。 高田勝さんが発見してた時、頭に水を掛けたら「嬉しそうに尻尾を動かした」そうです。 そこで漁船をチャーターして救出を試みたけれどダメだった。と手紙にありました。 撮影・高田勝さん |
91年室戸で座礁したマッコウクジラ 撮影・千代岡さん |
西洋ではこのような座礁の絵が沢山残っています。 |
もし、あなたが近所や出先の海岸等で、ストランディングしているクジラを発見したとしたら、
どうすればいいのでしょう?かくいう僕も十数年前の正月、宮崎県の青島海岸で数頭の
小型クジラのストランディングを目撃したことがあります。
ストランディングしたクジラを目撃した時、その状況によって私たちが取り得る
方法としていくつかの選択肢があります。
それについて順に説明することにしましょう。
クジラは誰のもの? | ストランディングしたクジラは誰のものでしょう? 所有権はあるのでしょうか? 日本の動物は、生きていても死んでいても概念として「無主物」という位置づけになっていて、それは「主のない、誰のものでもないもの」ということを意味します。 じゃ誰のものでもない、クジラやフクロウは勝手に持ってきていいかというとそうではありません。山田金太郎さん所有の山にいるフクロウでも山田さんのものではなく、スズメの死体が落ちていても、それも山田さんのものではないから勝手に夕食のテーブルに並べることは出来ないのです。 海辺にある山田商事の社員寮の裏にクジラが打ち上げられても、クラゲが打ち上げられても、海草が流れ着いても。それは山田商事が勝手に処理することは出来ないのです。 「無主物」はそれぞれの動物を管理監督する役所があって、フクロウなど陸上の動物は環境庁。魚類と海生哺乳類(クジラと鰭脚・ラッコやオットセイなどひれあし類)は水産庁の法律によって管理されています。 さらに天然記念物に指定されている生き物については文化庁の管轄でもあります。 だからこれらの動物は、生きているか死んでいるかにかかわらず、勝手に処分することはおろか、一メートル移動することさえもできない決まりになっているのです。 も少し詳しく書いてみましょう。 「兎追いしあの山、小鮒釣りしかの川♪・・・・」 思わず目頭が熱くなる、「故郷」という歌があります。 今、兎を追って捕まえ、鮒を釣ったら法的に罰せられるのでしょうか? 答えは、兎は決められた期間に決められた猟法以外の方法で捕ると罰せられますし、鮒は、場所によりいけなかったり、よかったりします。 つまり、そこに漁業権が設定されていたらいけないし、そうでなければいい、ということになります。 漁業権は種を謳ってあるもの、場所を謳ってあるもの、その両方、など様々で、都道府県知事が許可します。 海辺で貝を拾うのも同じでなら海草を拾うのも同じなのです。 それが現代の「故郷」なのです。 |
法的な根拠 | 元になる法律は「漁業法」で、公共水面を利用する水産動植物の採捕行為を決めています。 公共水面というのは、波の打ち寄せる最高高潮時ブラスαまでと細かく決められていて、つまり、水のある所にいる生き物すべてについてが対象になるわけです。 採捕とは、それを所持支配する状態に移すことをいいます。ま、水産の生き物を手に持ってもいけないと云うことです。 他にも、「水産資源保護法」「ラッコ、オットセイ猟獲取締法」「いるか猟獲取締規則」それらの「通達」があり、「種の保存法」も関係します。 ストランディングに関係するもので特筆するべきは、平成3年3月28日付け水産庁振興部長名で出された「小型鯨類の取り扱いについて」という文章で、混獲発見時に死んでいるイルカについては、原則として埋没、消却等適切な処理を行うこと、なお伝統的にいるかを食する習慣のある地域においては、別記2及び3のイルカに限り(種を限ってます)当該混獲等発見時に死んでいるものについて、例外的に地元で消費して差し支えないが、この場合においても地元での消費に限ることとし、販売は行わないこと。 というのがあります。 これは後に述べることと大いに関係してくるわけで、地元を元気づけたようです。 「死にかかっているのだから・・・・」「どうせ死ぬんだから・・・・」から、「まだ生きてたから新鮮だよ」まで、決まった鯨種などはどこへやら・・・混獲ばかりか座礁でも、近畿地方からトラックで買いに来るのだそうで、どうやらこれが現実の姿なのは困ったものです。 そこで残念ながら水産庁の定める方法以外の対処も必要と考えざるを得なくなります。 一方、陸上の動物については、「狩猟並びに鳥獣保護に関する法令」があります。 「漁業法」「狩猟並びに鳥獣保護に関する法令」ともに、いずれも「捕る」ことを前提とした法律で、保護がベースになっていないことが、環境問題が云われ、野生生物保護が云われる現代とマッチしていないという印象は否めません。 |
ストランディング・クジラとの遭遇 | |
生存の確認 まず、クジラが生きているのか、それとも既に死んでいるのかを 確認します |
潮を噴いているか? あるいは潮を噴く音が聞こえるか? 陸に乗り上げている場合、噴気孔が開き閉じしているか? 尻尾を動かすなど、動きがあるか? 胸に触れて心拍があるかどうか? しばらく見ていて潜ったり浮いたりするか? 少しでも移動するか? 目の前後を叩くと瞬きをするか? 以上が確認されると、「生存」していると思われるので、すぐに救助にかかりますが、元気で私たちの手に負えそうだと判断できたら、次の「救助」を試み、弱っていて死にかけていそうだとか、とても自分たちの手に負えないとなると、「通報」となります。 |
救助 ストランディングしたクジラが生存していることが確認されたら、直ちに救助にかかります。 なんたってクジラは海生哺乳類ですから水の中にいます。いやストランディング時は、半分、時には全部陸にあがっているかもしれませんが・・・・、ともかく水の内に帰さなくてはなりません。ということは自分も水の内に入る覚悟がいりますよね。 寒い時、海が荒れている時などは要注意です。海岸が急に深くなっている所もありますから水に入る時にも注意が必要です。一歩間違ったら自分がストランデイングしてしまうおそれがあるからです。 それにクジラは巨大です、小型のイルカなどなら何とかなるかも知れませんが(実際はなかなかどうしてなんとかなりません、その重たいこと)、集団でのストランディングとなると小型のクジラでも個人の手には負えません。 先ず、周りの人に声をかけて応援を要請します。 次に、身体の水から出ている部分に水を掛けます。これは空気に触れることはクジラらとっては「火傷」のような症状になるからです。バスタオルか毛布など、とりあえず近くにあるぼろ布でもなんでもいいから隙間なく被せて乾かないように水をかけ続けます。 満ち潮ならそのまま水が増してクジラが浮くのを(軽くなるのを)待ち遠くへ押しやるのがいいのですが、引き潮なら益々身体が露出するので急いで海に帰す作業をしなくてはなりません。 なんとか無事にクジラが陸から離れました。一安心。 ところが、なんとしたことか、クジラは「私のことは放っといて」とばかり自ら陸に向かって乗り上げるということがしばしば見られます。 外国の集団ストランディングでも、この摩訶不思議な行動に手を焼いています。 これに対する最善の策は、クジラをもっと沖に連れていって放す。さらにしばらく監視するということになります。 こうなると、海岸を散歩していて偶然ストランデイングに遭遇したから救助を試みた、というケースでは対処不可能な状況です。 船も必要だし、時にはもっと多くの人数も必要になるからです。 そこで次の手段となります。 |
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